なんだかんだ言って昔は、淫靡な表現の文章や漫画は多かった。
それに比べると、今の世代は大人しいというか、理性的というか…
この方も一昔前、いや随分昔に時代を作った漫画家。
つげ義春氏。
”つげ義春にゆかりのある宿”
最初にそのフレーズを聞いたのは、静岡の宿だったか…。
ふたまた温泉。漢字で書けば「二岐」
しかしながらこの温泉場を縦に抜ける川の名前は「二俣川」
そう、猿が逃げそびれて台風の中、取り残された中州の川は、二俣川。
ここは、『二岐温泉 湯小屋旅館』
晩秋の頃、移動の果てにたどり着いた今宵の宿は、
あたりはとっぷり暗く、半分闇の中に。
暖簾をくぐると…
あらまぁ、ここはペンションか、
管理人付きのよく手入れされた別荘か…
そんな思いに反してちょっと、異次元への扉を開けるような雰囲気になるのが
このあたりから。
この竹と寺院の絵は、この漫画のこれと一緒。
そして、この「赤いひと」は
この漫画に出ているこのひとがモチーフ(らしい)。
二岐温泉 湯小屋旅館。
つげ義春の『二岐渓谷』に出てくる湯宿。
湯屋には、この引き戸を開けて進む。
大き目の湯舟。確か男女利用可。
この左手奥から露天風呂へ出られたはず。
暗いから… 猿が居てもほんとわからなそう。
これは明るくなってから見るに限る…♨
浴室内には、たくさんアヒル隊長が居たので、
アヒル隊長ゆるり~も紛れ込んでみた。
そしてこちらが女性用の小さ目の湯舟。
ふたつ源泉ありなので、自然湧出、源泉温度42度は露天風呂のほうか。
そうなると、内風呂が56度源泉?
…嗚呼、熱くて気持ちがイイ。
今にも小雪舞いそうな、冷冷たる空気と、熱湯のギャップで、
じんじん手足がしびれることに快感を覚えてしまう…♨
予感は…当たった。
朝の光は白々として。
窓の外は… 粉雪を纏った裸木たち。
まるで…一斉に桜が咲いたようなこの情景も、
昼になるにつれぬるみ、次々に落雪していくから、
本当に早朝の今だけの景色。
一晩待って、見事な雪見風呂になりましたね…。
内風呂で充分あったまってから、いざ、露天風呂へ。
紅葉の時期も、見事な錦秋だったのだろうな、と思わせる、
この木々たちの枝ぶり。
昨晩、闇の中でよく見えなかった外観も、
ほら、このとおり。
左手が「昔からある」入口=つげ義春の描いた漫画のとおりの入口。
右側が、今のご主人が手を入れきれいにしてくださった入口。
昨夜はこちらから、ごめんください、と。
こうやって見ると、なんともアンバランス感は否めないが、
つげファンからは、ぜひ残してほしい、と切望された入口。
つげ義春氏も今や87歳、
『二岐渓谷』をしたためたときが1968年というから、
つげ氏32歳の頃、今から55年前。
四半世紀、どころか、半世紀前のこと。
今でこそ、「秘湯」は温泉好き(マニア)にとっては垂涎の的。
だけれどもその頃の「秘湯」とは…
今からでは想像しえないほど、
厭世的、幻想的、沈美的、非現実的(今から見れば)…
そんな世界観を味わいたかったら、
彼の本を手に、静かな秘湯へ、どうぞ。
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『湯小屋旅館』、現在1日1組の御宿です。
素泊まりもあり、食事つきプランもあり。
立ち寄り入浴も可能ですが、予約不可、
行って先客が居たら待たせてもらう感じで。
(10~15時まで、入浴料(貸切料込)ひとりあたり1,000円)
ただし、駐車場について、これが出ていたら、諦めてくださいね…。
「湯小屋旅館 本日終了」
<温泉分析書>源泉名:二岐温泉13号泉
泉質:カルシウム-硫酸塩温泉 源泉温度:42.1度 pH:9.0 成分総計:1,196mg/kg
加水なし/加温なし/循環なし/消毒なし 自然湧出
<温泉分析書>源泉名:二岐温泉7号泉
泉質:カルシウム-硫酸塩温泉 源泉温度:52.5度 pH:9.0 成分総計:1,383mg/kg
加水なし/加温なし/循環なし/消毒なし