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渋谷駅にある、岡本太郎壁画『明日の神話』

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明日の神話』は、岡本太郎が制作した、
縦5.5メートル、横30メートルの巨大壁画です。

明日の神話』が描かれたのは、
太陽の塔』の制作と同時期の、1968年から1969年。

メキシコの実業家から
「新築ホテルのロビーを飾るための壁画を描いてほしい」という依頼を受けた岡本太郎が、
現地メキシコに何度も足を運んで完成させました。

しかし、依頼主の経営状況が悪化したことでホテルは未完成のまま放置されることになり、
明日の神話』もロビーから取り外されて行方不明になってしまいました。

永らく行方がわからなくなっていましたが、
2003年9月、メキシコシティ郊外の資材置き場で、『明日の神話』が発見されました。

岡本太郎記念館館長だった岡本敏子が現地を訪ね、これを確認しました。

岡本太郎が『明日の神話』を描きあげてからの30余年、絵は少なからず損傷を受け、
迅速な修復を必要としていました。

岡本敏子は『明日の神話』再生プロジェクトを発足させ、
壁画を日本へ運び、修復する取り組みを始動しました。

2003年から2004年にかけて、このニュースは日本をかけめぐりました。

明日の神話』が修復され、日本のどこかへ設置されるまでの
一連のプロジェクトを支援する応援団「太郎の船団 TARO'S BOATS」が結成されました。

(『明日の神話』再生プロジェクトから引用)

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岡本敏子館長 「明日の神話」について

明日の神話』は原爆の炸裂する瞬間を描いた、岡本太郎の最大、最高の傑作である。

猛烈な破壊力を持つ凶悪なきのこ雲はむくむくと増殖し、その下で骸骨が燃えあがっている。
悲惨な残酷な瞬間。
逃げまどう無辜の生きものたち。
虫も魚も動物も、わらわらと画面の外に逃げ出そうと、健気に力をふりしぼっている。

第五福竜丸は何も知らずに、死の灰を浴びながら鮪を引っ張っている。

中心に燃えあがる骸骨の背後にも、シルエットになって、
亡者の行列が小さな炎を噴きあげながら無限に続いてゆく。

その上に更に襲いかかる凶々しい黒い雲。

悲劇の世界だ。

だがこれはいわゆる原爆図のように、ただ惨めな、酷い、被害者の絵ではない。

燃えあがる骸骨の、何という美しさ、高貴さ。
巨大画面を圧してひろがる炎の舞の、優美とさえ言いたくなる鮮烈な赤。
にょきにょき増殖してゆくきのこ雲も、
末端の方は生まれたばかりの赤ちゃんだから、無邪気な顔で、びっくりしたように下界を見つめている。

外に向かって激しく放射する構図。強烈な原色。
画面全体が哄笑している。悲劇に負けていない。

あの凶々しい破壊の力が炸裂した瞬間に、
それと拮抗する激しさ、力強さで人間の誇り、純粋な憤りが燃えあがる。

タイトル『明日の神話』は象徴的だ。

その瞬間は、死と、破壊と、不毛だけをまき散らしたのではない。
残酷な悲劇を内包しながら、その瞬間、誇らかに『明日の神話』が生まれるのだ。

岡本太郎はそう信じた。この絵は彼の痛切なメッセージだ。
絵でなければ表現できない、伝えられない、純一・透明な叫びだ。
この純粋さ。リリカルと言いたいほど切々と激しい。

二十一世紀は行方の見えない不安定な時代だ。
テロ、報復、果てしない殺戮、核拡散、ウィルスは不気味にひろがり、
地球は回復不能な破滅の道につき進んでいるように見える。

こういう時代に、この絵が発するメッセージは強く、鋭い。

負けないぞ。

絵全体が高らかに哄笑し、誇り高く炸裂している。